機能画像を診断に使う場面

病気と言うのはそもそもが機能の異常であって、人間の体が本来動くべき機能を果たせない状態のことを意味します。 機能を果たせない状態になった原因または結果として、構造の異常を認めることも多々あります。 反対にいうと構造に異常を認めても機能が正常であれば生きていくには特に問題はないのでそのような状態は病気とはいいません。

実際の画像診断に当てはめて考えてみると、 例えば心臓の冠動脈に動脈硬化性の狭窄を認めても(構造に異常がある状態)、心筋内の毛細血管の中を流れる血流が低下していなければ(機能低下が無い状態) 狭心症などの病気は発生しません。 動脈硬化性の狭窄の有無については X線 CTやレントゲン透視で 解剖学的な画像を使って診断します。一方、 目に見えないような細い毛細血管の中の血流 が保たれているかどうかについては 核医学検査であるシンチグラムを用いて機能として診断します。

核医学の検査を行うには大掛かりな設備が必要となります。日本は 画像診断機器の普及に関しては圧倒的に世界一なのですが、他の先進国と異なり医療機器の選択と集中が行われていないので大規模の本格的な画像診断設備を備える病院は案外少ないのが実態です。そのため大型の設備投資が必要な核医学の施設を持たない基幹病院も数多く存在します。解剖学的な構造の異常と機能障害はある程度相関するのが普通で上記のように一致しない例はどちらかと言うと例外的なことになるので、 機能画像を使わずに診療を進めることも珍しくはありません。

核医学の3本柱

現在の医療で用いられる核医学の技術としては、RI検査、RI治療、PET検査の大きく3つの柱があります。

1つ目は 昔から使用されてきた歴史のある放射性同位元素(RI = Radio-Isotope)が 人体を透過するガンマ線を放出する性質を利用してを人体の機能を反映する化学物質に組み込んでその分布から機能診断する、いわゆるシンチグラムあるいはRI検査と言われる技術。現在よく使われるのは脳機能、心機能、腎機能といったところですが、脳内のレセプターの機能、心筋や骨の代謝、唾液腺の機能など様々な人体の機能を評価するために用いられています。

2つめは放射性同位元素(RI = Radio-Isotope)を治療のために用いる核医学治療。歴史的には放射性ヨウ素(I-131)から放出されるベータ線を用いた甲状腺機能亢進症や甲状腺がんの治療に用いられてきました。現在ではストロンチウム(Sr-89)から放出されるベータ線ラジウム(Ra-223)から放出されるアルファ線を用いた骨転移による疼痛治療や、イットリウム(Y-90)から放出されるベータ線を用いた悪性リンパ腫の治療も行われるようになました。ルテチウム(Lu-177)から放出されるベータ線を用いた神経内分泌腫瘍や前立腺癌の治療なども研究されています。

3つめは電子と陽電子の衝突で、反対方向に放出される二つの光子(消滅放射線)を計測してCTのように断層画像化するPET検査の技術です。PET検査は原理的に1番目の核医学検査と同じようなものなのですが21世紀に入って急激に発展してきたため、いまや核医学の技術を形成する一つの柱となっています。陽電子を放出する放射性同位元素としては酸素、炭素、窒素、フッ素などが知られていますが、現在の医療ではフッ素(F-18)をブドウ糖に類似した構造の化学物質に結合させて(F-18 FDG)投与しその分布から身体のブドウ糖代謝の機能(高低)を画像化する技術がよく普及しています。現在ではX線CTを使った身体構造の画像とPETを使ったブドウ糖代謝の画像をコンピューターで重ね合わせて身体の機能と構造を同時に評価するPET/CTと呼ばれる技術が使われることがほとんどとなりました。

核医学と放射線診断学

「先生のやっている核医学って放射線診断と同じ?」とよく訊かれるのですが、 医療用の画像診断をしていると言う点ではざっくりと同じような仕事なのですが、厳密には 診断する対象が異なるためにそれに用いているツールも違うと言うことになります。 核医学という名前はこのツールに由来するのかなと思っています。

医療用の画像診断というと、代表的なのはレントゲン写真だとおもうのですが この技術は体の外から放射線(X線)を照射し人体を透過するときの放射線の吸収の違いをフィルムに焼き付けて人体の構造を画像化します。CT装置なども同じような原理なのですが、要は 人体の構造を画像化するために放射線を用いるので放射線診断と呼ばれるのかなと思います。

それに対して私たちの従事している核医学と言う技術は、放射性同位元素(RI = Radio-Isotope)を用いた化学物質である放射性薬剤を体内に投与してその分布や時間的な変化を画像化して身体の機能を診断します。放射性同位元素の放出するガンマ線を使うことが多いのですが、このガンマ線原子核から放出されるため核医学と呼ばれているのだと思っています。

現在では病院内の診療科としては放射線診断科の中に核医学の部門が組み込まれていることが多いと思います。画像診断の技術は急激に進歩しており今や放射線核医学だけではなく磁力や超音波、遠赤外線など様々な医用画像が診断に用いられるようになりました。もはや核医学だけが機能画像をやっているわけではないのですが、 このような歴史があるので我々核医学の専門家は人体の構造よりも機能に興味があって仕事をしているということになります。

核医学 = 機能画像の中心的な技術

機能画像には様々な技術がありますが、その中で最も古くから確立し普及している技術が放射性同位元素(RI: Radio Isotope)を用いて特定の機能を画像化する方法です。同じ技術を用いて疾患の治療も行うのでこれらを総称して核医学と呼びます。

歴史的に最初に採用された技術はヨウ素甲状腺の機能に応じて人体に取り込まれる性質を利用したものです。ヨウ素同位元素(陽子数が同じで質量数が異なる)のうち放射線を放出するヨウ素131を投与して甲状腺から放出される放射線(ガンマ線)を数えることによりその人の甲状腺の機能を予測することができます。甲状腺の機能はしばしば高くなったり(甲状腺機能亢進症)低くなったり(甲状腺機能低下症)してそれが病気の原因となっているのでその状態を核医学の技術を使って評価することが可能になったと言うわけです。

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機能画像とは

人間の体を画像で見ると言うと思いつくのはレントゲン写真や最近ではCT、MRIといった断層画像になると思いますがこれらの画像は人間の体の構造を画像化しています。生きている人間の体の機能を見るにはこれらとは若干違った技術を用いることになります。これらを総称して機能画像と呼びますが、一般的には人間の体の特定の機能を反映する信号を拾って画像化すると言うイメージになります。

この画像は六甲山から見た神戸市街の風景ですが日中の画像ではどこに道が通っていてどのあたりに大きな建物があってといった街の構造がよくわかります。(© 一般財団法人神戸観光局)E65

同じ風景を夜に撮影してみると街の構造はわからなくなりますがどのあたりの街が賑やかでどのあたりが静かなのかといった機能が分かります。

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人間の体もこれと同じでCTやMRIといった一般的な画像(解剖学的な画像)は昼間の風景、機能画像は夜景を見ていると考えれば分かりやすいと思います。

例えば病気を発見するにしても解剖学的な画像情報からはなかなか異常を見つけるのが難しい場合も機能画像を使えば一目瞭然でわかることがあります。

下の画像は東日本大震災の前後での日本列島の夜景を表していますが震災後には日本列島全体の機能低下と特に東北地方での活動の低下が一目瞭然です。

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風景写真の夜景は一般的な夜間の人間の活動を見ているのですが、人体は様々な機能の集合体なので画像化するときにはそれらのうちで特定の機能のみを画像化させて見ることになります。